他人のそら似を生む進化・その1 背中のヒレは王者のしるし?


毎年プチリニューアルをくり返す、カード版季刊生命誌も気が付けば6年目。毎回新たな研究者のテーマを取材し、生命科学の知見もどんどん新しくなっていくので、内容やデザインに困ることはないのですが、何故かもれなく付いてくる紙のおまけの方は、そろそろネタに困るようになってきました。毎年おまけに関しては「テーマが先」か「形が先」かという明確な区分はなく、BRHがその年の年間テーマにからんだいろいろなトピックを候補として挙げ、僕がいろいろな造作を持ち込み、全員が集まってあーでもないこーでもないとやりながら、テーマと形をうまくドッキングさせる方法を取っています。2007年度の生命誌のテーマは「生る(なる)」。狭くは文字通り個体の誕生から、種の誕生、生命の誕生を経て、果ては宇宙の誕生までを、記事のテーマとして取り上げる予定です。

 

誕生と言えば赤ちゃん。動物の親子のペーパークラフトなんてカワイイよねーなんて話していた時期もあるのですが、そんなに素直な発想では済まないのがBRHのBRHたる所以。あーでもないこーでもないの結果、今年度のおまけのテーマは「収斂進化」ということに決まりました。

 

「収斂進化」。ちょっと生物学に興味のある方であればご存じですよね。もともとは全く別の種である複数の動物が、それぞれ似た環境の中で生活し進化を重ねていくうちに、外見的(あるいは機能的)には、とても似た形になってしまう進化の形態をこう呼びます。興味深いのは、外見的には同じ形に見える器官が、その大元をたどっていくと、しばしば全く別の器官が別の道筋を通って今の形に落ち着いていることが分かること。有名な「パンダの親指」という本がありますが(グールドという古生物学者が、僕みたいな生物学素人を対象に、生物学の様々なトピックを面白く分かりやすく綴った短文をまとめた本です。僕は大昔にこの本に出会って、進化やらDNAやらに興味を持ちました)、この本の中では、パンダが大好物の笹を握るために、熊として一旦退化させてしまった親指の機能を代行させるために、元親指の骨ではなく、たまたまその目的のために使うことのできた手首の別の骨を進化させ、一見親指のように見える器官を復活させた話が出てきます。

 

てなことを、おまけ1個で直感的に理解させよ、少なくとも興味を惹かせよという毎年恒例の無理難題。今年もエライ難儀をして、写真のようなものをひねりだしました。右から見ると爬虫類のイクチオサウルス、左から見ると魚類のホオジロザメに見える、組み立て式の厚紙クラフトです。収斂進化に関するウンチクは、別紙の解説シートに収録しました。厚紙にスリットを入れて組み合わせるこの技法、僕にとってはほとんど初体験だったので、印刷所の方とやりとりをして紙の厚さやスリット幅の限界などを試しながら作りました。今回は比較的シンプルな形の動物だから何とかなったけど、さて次回はどんな動物になることやら。収斂進化と僕の腕の進化、今年はこの2つに注目してご覧ください。