とびだすそっくり生きもの・第4回 ビー・オーキッド
擬態ペーパークラフトもいよいよ最終回となりました。生き残るために環境や他の生物に変装をする生きものは何も動物だけではなく、植物の中にも見事な擬態を見せるものがあります。目の見えない植物が物真似をするっていうのは不思議な気もしますが、植物は単に生まれて育って枯れていくだけ。騙される側が勝手に見間違えた結果、自然選択が積み重なってますます似ていく訳ですね。そんな植物の擬態も是非知っていただきたいってことで、今回は蜂に擬態する蘭の一種「ビー・オーキッド」をお届けします。
地中海沿岸を原産地とするこの蘭は、その花びらをメスの蜂に擬態させています。上の写真のピンクの花びら(実は萼片)の間にある茶色くて丸っこい部分、これがビー・オーキッドの花びらで、知らないと蜂が花に止まっているようにしか見えません。その姿に誘惑されたオス蜂が交尾をしようと上に乗っかると、必然的に柱頭に頭を突っ込む姿勢になって頭や背中に花粉が付着します。あらら間違えた、今度こそはと思って向かった次の花に止まると、花粉が雄しべにくっついて、めでたく受粉成立というしくみ。メス蜂のフェロモンに似た物質まで分泌しているそうですから徹底しています。あらためて自然というのはよくできているなぁと思わされる見事なメカニズムですが、これ、人間界に例えるとかなり悪質な犯罪行為ですよ。キャバクラで看板嬢を指名したのに写真とは全然違う人が出てきてクレームつけたら、いやこの時間は系列店に出てますからって他の店に連れてかれる隙にポケットに危険ドラッグしのばされて知らぬ間に運び屋にさせられた、くらいの話です。まさにハニートラップ。からの泣きっ面に蜂。
さて、そんな悪どい商売をしている蘭の側にもやっぱり報いはあるわけで、実はビー・オーキッドが何十万年、何百万年をかけてその姿を似せるモデルとなった蜂は、既に絶滅してこの世からいなくなってしまったと考えられています。現在でも種の違う蜂がちょいちょい訪れはするものの、蜂による受粉はそれほど重要ではなく、代りに自家受粉(一つの花の中でおこなわれる受粉/花粉の媒介者を必要としない)をする方向にコツコツ進化をし直しているとのこと。葉っぱに似せるあまりに飛べなくなった前回のコノハムシもそうでしたが、時間と進化の壮大な追いかけっこには毎回頭をクラクラさせられます。